生物工学演習D -第1回- ラプラス変換を理解する
今回の目標
□積分計算でラプラス変換ができるようになる(ラプラス変換対応表を自分で確認できる).
□ラプラス変換表の形に数式を変形して逆ラプラス変換できるようになる.
ラプラス変換の気持ち
なぜラプラス変換を学ぶのか?
端的に言うとラプラス変換は微分方程式を誰でも解けるようにするツールである[1].
微分方程式は物体の運動,電気回路,化学反応など自然界の現象を記述する際に必要不可欠で多くの場合その解を知ることが重要となる.
微分方程式をそのまま解く場合,解の一般形を代入したりする必要があり,その形が思いつかない人には解くことができない.
ラプラス変換を使用すれば特定の手順で手を動かしさえすれば誰でも解けるのである.
つまり微分方程式の民主化である(東北大学の大関先生の表現[1]).
・自動車のサスペンションシステム
質量・バネ・ダンパによる2次の常微分方程式
・人口モデル
人口増加の予測モデル.一般的にはロジスティック方程式でモデル化される
・電子回路の解析
回路の動作特性を調べることができる.RLC回路など
・化学反応速度(薬物動態モデルなど)
体内での薬物の反応速度などを予測する際にも微分方程式が用いられる.
ラプラス変換の定義と理由
\(f(t)\)を\(t\geq0\)に対して定義された\(t\)の関数とする.
このとき\(f(t)\)のラプラス変換を\(\mathcal{L}[f(t)](s)\)で表し以下のように書ける.
\begin{align}
\mathcal{L}[f(t)] = F(s) = \int_0^\infty f(t) \exp(-st) dt
\end{align}
\(s\)は一般に複素数だがその実部は正.
・積分範囲が\(0から\infty\)なのは\(s\)の実部が正の時に\(-\infty\)で\(\exp(-st)\)が発散してしまうため.
・ラプラス変換ではフーリエ変換と異なり無限遠で0とならない関数\(f(x)\)を扱うことができる.これは\(\exp(-st) \)が無限遠で0になるように関数\(f(x)\)を抑えているためである.
・ラプラス変換が可能な関数
全ての\(t \ge 0 \)に対して\(|f(t)| \le Me^{kt}\)となる区分的に連続な関数\(f(t)\)
・ラプラス変換が特に有効な微分方程式は定係数線形微分方程式
係数が変化する微分方程式もラプラス変換で扱うことができることもある[3].例:ラゲールの微分方程式
微分方程式を解くときの流れ
以下のようなばね定数\(k\)のばねの先についた質量\(m\)の質点の運動方程式を例題として考える.
2行目の式は初期条件である.
\begin{align}
m\frac{d^2}{dt^2} x &= -kx, \\
x(0) = 1, &\frac{d}{dt} x(t)|_{t=0}=-2
\end{align}
両辺をラプラス変換する
ラプラス変換対応表を参考にすると
\begin{align}
\mathcal{L}\left[m\frac{d^2}{dt^2} x\right] &= \mathcal{L}\left[-kx\right], \\
m\left(s^2X(s)-sx(0)-\frac{d}{dt}x(t)|_{t=0}\right) &= -kX(s), \\
m\left(s^2X(s)-s \times 1-(-2)\right) &= -kX(s), \\
\end{align}
次に\(X(s)\)についてまとめる.
\begin{align}
ms^2X(s) – ms +2m &= -kX(s), \\
(ms^2+k)X(s) &= ms – 2m, \\
X(s) &= \frac{ms – 2m}{(ms^2+k)}, \\
X(s) &= \frac{s – 2}{(s^2+k/m)}
\end{align}
この式の両辺を逆ラプラス変換すると左辺は\(x(t)\)となり,右辺が微分方程式の解となる.
ラプラス変換対応表にある形になるように変形(部分分数分解など)する
今回の数式は別に分母を分解しなくても以下のようにラプラス変換対応表にある形にすることができる.
\begin{align}
X(s) &= \frac{s – 2}{(s^2+k/m)} \\
&= \frac{s}{(s^2+k/m)} – \frac{2}{(s^2+k/m)}\\
&= \frac{s}{(s^2+k/m)} – (2\sqrt{m/k})\frac{\sqrt{k/m}}{(s^2+k/m)}
\end{align}
ラプラス変換対応表をみてX(s)->x(t)へ
ラプラス変換対応表から
\begin{align}
x(t) &= \cos \sqrt{k/m}t – 2\sqrt{m/k}(\sin \sqrt{k/m}t)
\end{align}
同じ答えを別の計算で得ることで理解を深めることができる.ということで部分分数分解して逆ラプラス変換した場合に同じ答えが得られるのかを確認する.
部分分数分解の方法は大きく2つある. 今回は1つ目の係数比較を紹介する. (実は今回の場合は部分分数分解する必要はないが練習のため行う) \begin{align} \frac{s – 2}{(s^2+k/m)} = \frac{a}{s+i\sqrt{k/m}} + \frac{b}{s-i\sqrt{k/m}} \end{align} 目的の関数が適当な係数\(a\)と\(b\)によって上記の式のように表せると仮定する. \begin{align} \frac{a}{s+i\sqrt{k/m}} + \frac{b}{s-i\sqrt{k/m}} &= \frac{a(s-i\sqrt{k/m})}{(s^2+k/m)} + \frac{b(s+i\sqrt{k/m})}{(s^2+k/m)}\\ &=\frac{a(s-i\sqrt{k/m})+b(s+i\sqrt{k/m})}{(s^2+k/m)}\\ &=\frac{(a+b)s-(a-b)i\sqrt{k/m}}{(s^2+k/m)}\\ \end{align} この式と最初の式の係数を比較すると \begin{align} a+b &= 1,\\ (a-b)i\sqrt{k/m} &= 2 \end{align} ここで微分方程式を解くという問題が上記の代数方程式を解くという問題になっていることを意識してほしい. つまり,ラプラス変換という手続きを経ることで高校生や頑張れば中学生でも解ける形になったわけである. このとき係数\(a\)は \begin{align} a+b + (a-b) &= 1 – 2i\sqrt{m/k},\\ 2a &= 1 – 2i\sqrt{m/k},\\ a &= 1/2 – i\sqrt{m/k}, \end{align} また係数\(b\)は \begin{align} b &= 1-a\\ &= 1 – (1/2 – i\sqrt{m/k})\\ &= 1/2 + i\sqrt{m/k} \end{align} つまり以下のように部分分数分解できる. \begin{align} \frac{s – 2}{(s^2+k/m)} = \frac{1/2 – i\sqrt{m/k}}{s+i\sqrt{k/m}} + \frac{1/2 + i\sqrt{m/k}}{s-i\sqrt{k/m}} \end{align} 以下の式を逆ラプラス変換する. \begin{align} X(s) &= \frac{1/2 – i\sqrt{m/k}}{s+i\sqrt{k/m}} + \frac{1/2 + i\sqrt{m/k}}{s-i\sqrt{k/m}} \end{align} 分子は定数なので逆ラプラス変換に影響のある分母の形に注目すると\(\frac{1}{s-a}\)という形になっている. これを逆ラプラス変換すると\(e^{at}\)になる. つまり, \begin{align} x(t) &= (1/2 – i\sqrt{m/k})e^{-i\sqrt{k/m}t}+ (1/2 + i\sqrt{m/k}) e^{+i\sqrt{k/m}t}\\ &= \frac{e^{-i\sqrt{k/m}t} + e^{+i\sqrt{k/m}t}}{2} – i\sqrt{m/k}(e^{-i\sqrt{k/m}t} – e^{+i\sqrt{k/m}t}) \end{align} オイラーの公式より\(e^{i\omega} = \cos \omega + i\sin \omega\). それらの和や差は以下のように三角関数になる. \begin{align} e^{i\omega}+e^{-i\omega} = 2\cos \omega,\\ e^{i\omega}-e^{-i\omega} = 2i\sin \omega,\\ \end{align} そのため \begin{align} x(t) &= \frac{e^{-i\sqrt{k/m}t} + e^{+i\sqrt{k/m}t}}{2} – i\sqrt{m/k}(e^{-i\sqrt{k/m}t} – e^{+i\sqrt{k/m}t})\\ &= \cos \sqrt{k/m}t – i\sqrt{m/k}(-2i\sin \sqrt{k/m}t)\\ &= \cos \sqrt{k/m}t – 2\sqrt{m/k}(\sin \sqrt{k/m}t) \end{align} このように同じ解が得られた.
\(f(t)\) | \(F(s)\) |
\(1\) | \(\frac{1}{s}\) |
\(t\) | \(\frac{1}{s^2}\) |
\(t^n\) | \(\frac{n!}{s^{n+1}}\) |
\(e^{at}\) | \(\frac{1}{s-a}\) |
\(\delta(t)\) | \(1\) |
\(\sin(\omega t)\) | \(\frac{\omega}{s^2+\omega^2}\) |
\(\cos(\omega t)\) | \(\frac{s}{s^2+\omega^2}\) |
\(f(t)\) | \(F(s)\) |
\(\frac{d}{dt}f(t)\) | \(sF(s)-f(0)\) |
\(\frac{d^2}{dt^2}f(t)\) | \(s^2F(s)-sf(0)-\frac{d}{dt}f(t)|_{t=0}\) |
\(\int_0^t f(t) dt\) | \(\frac{1}{s} F(s)\) |
\(e^{at}f(t)\) | \(F(s-a)\) |
\(f(t-a)ただしt=a以前はf(t)=0\) | \(e^{-as}F(s)\) |
対応表の関数は基本的にはt=0以前で値が0となるような関数\(f(x)\)を対象にしている.
逆ラプラス変換の定義を使った計算はしない?
逆ラプラス変換は複素積分として以下のように定義される.
\begin{align}
\mathcal{L}^{-1}[F(s)] = f(t) = \frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty} F(s) \exp(st) ds
\end{align}
この複素積分は留数定理によって計算することができる.が実際に逆ラプラス変換する際にはラプラス変換対応表を使用することが多い.
ラプラス変換の練習
練習1:
\begin{align}
f(t) = \left\{
\begin{array}{ll}
0 & \mathrm{for}\ t < 0 \\
t & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\end{align}
\begin{align} \mathcal{L}[f(t)] &= \int_0^\infty f(t) \exp(-st) dt\\ &= \int_0^\infty t \exp(-st) dt\\ &= \left[t(-\frac{1}{s} \exp(-st))\right]_0^\infty – \int_0^\infty -\frac{1}{s} \exp(-st) dt\\ &= 0 – \int_0^\infty -\frac{1}{s} \exp(-st) dt\\ &= \frac{1}{s} \int_0^\infty \exp(-st) dt\\ &= \frac{1}{s} \left[ -\frac{1}{s} \exp(-st) \right]_0^\infty\\ &= -\frac{1}{s^2} \left( 0 -1 \right)\\ &= \frac{1}{s^2} \end{align}
練習2:
\begin{align}
f(t) = \left\{
\begin{array}{ll}
0 & \mathrm{for}\ t < 0 \\
e^{-at} & \mathrm{otherwise}
\end{array}
\right.
\end{align}
\begin{align} \mathcal{L}[f(t)] &= \int_0^\infty f(t) \exp(-st) dt\\ &= \int_0^\infty \exp(-at) \exp(-st) dt\\ &= \int_0^\infty \exp(-(s+a)t) dt\\ &= \left[(-\frac{1}{s+a} \exp(-(s+a)t))\right]_0^\infty\\ &= -\frac{1}{s+a} (0-1)\\ &= \frac{1}{s+a}\\ \end{align}
逆ラプラス変換の練習
練習1:
\begin{align}
X(s) = \frac{s-2+1/s^2}{s^2+1}
\end{align}
\begin{align} X(s) &= \frac{s-2+1/s^2}{s^2+1} \\ &= \frac{s-2}{s^2+1} + \frac{1}{s^2(s^2+1)} \end{align} ここで\(\frac{1}{s^2(s^2+1)} \)を部分分数分解してラプラス変換対応表にある形に変形する. 変形の方法はいくつかある.
- 直感
- 係数比較法
- ヘビサイドのcover-up method
今回は係数比較法をつかう.
\begin{align}
\frac{1}{s^2(s^2+1)} = \frac{a}{s^2} + \frac{b}{s} + \frac{c}{s^2+1}
\end{align}
両辺に(s^2(s^2+1))をかけると
\begin{align}
1 &= a(s^2+1) + bs(s^2+1) + cs^2 \\
1 &= bs^3 + (a+c)s^2 + bs + a
\end{align}
つまり
\begin{align}
a &= 1 \\
b &= 0 \\
a + c &= 0
\end{align}
よって(a=1,b=0,c=-1)なので
\begin{align}
X(s) &= \frac{s-2}{s^2+1} + \frac{1}{s^2} – \frac{1}{s^2+1} \\
X(s) &= \frac{s}{s^2+1} – 3\frac{1}{s^2+1} + \frac{1}{s^2}
\end{align}
これを逆ラプラス変換すると
\begin{align}
x(t) &= \cos(t) – 3\sin(t) + t
\end{align}
となる
参考文献
[0] Ogata, Katsuhiko. Modern Control Engineering. 5th ed. Prentice-Hall Electrical Engineering Series. Instrumentation and Controls Series. Boston: Prentice-Hall, 2010. p862-
[1]ラプラス変換(1-1)【応用数学B第1回オンデマンド動画・2020年度東北大学工学部
[3]E. クライツィグ著,阿部寛治訳 (2003) 『フーリエ解析と偏微分方程式 原著第8版』
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